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2023年9月22日 更新 印刷用ページ印刷用ページを開く
切ったら、植える

2023(R.5).5.30

秋田県上小阿仁村長 小林悦次





今、世界の人達が快適な生活をするために電力は欠かせないものとなっております。

 電力は、そのほとんどを化石エネルギー(石油や石炭、天然ガスなど)に頼っております。

しかし、化石エネルギーの消費は、二酸化炭素を増やし続けます。

 世界全体での二酸化炭素の増加は、地球温暖化を招き、大型台風や豪雨をはじめとした異常気象につながり、自然災害をもたらす要因と考えられております。

 この二酸化炭素を削減するには、石炭や石油などの化石エネルギーを太陽光や水力発電、バイオマス発電などの自然エネルギーに代えることだと思っております。

 次に、二酸化炭素を削減するには、森林による二酸化炭素の吸収等によって、二酸化炭素を回収、貯蔵することだと思っています。

 村には、この森林資源が豊富にあります。

山林整備や水力発電の復活による化石エネルギーから自然エネルギーへの転換により、村に眠っているたくさんの資源による産業おこしや既存事業の見直しが、新しい事業として日の目を見るための努力をしなければならないと考えております。

事業については、民間でできることは、民間でお願いし、行政は、側面から民間の支援をすることだと思っております。

そして、民間に大いに儲けていただき、従業員の賃金を上げていただくものです。

 さらなる余力については、金融機関にお金を預けるのではなく、設備投資や新規事業に挑戦をしていただきたいと思っております。

 現状維持は、衰退の入り口にいることと同じだと思っております。

 また、民間には、これまで以上の社会貢献をお願いするものです。

社会貢献は、事業者に再びの仕事の還元と利益の循環を生み出すものと確信しております。

そして、民間の対応は、結果的に将来の上小阿仁村や村民サービス向上につながると信じております。



目       次



切ったら、植える                 ―――――― 1



Ⅰ 上小阿仁村の森林を守り、活かしていく       ―――――― 3



Ⅱ 上小阿仁村の紹介               ―――――― 5

1 現状について                ―――――― 6

(1)    地球温暖化と異常気象による災害     ―――――― 6         

(2)    人工林が無くなる            ―――――― 6

(3)    立木価格と担い手問題          ―――――― 6

2 その対策について              ―――――― 7

(1)    災害防止                ―――――― 7

①    化石エネルギーから自然エネルギー    ―――――― 7

②    人工林と天然林の比較            ―――――― 7

(2)    計画的な伐採と植栽計画         ―――――― 8

①    齢級バランスの確保           ―――――― 8

②    植栽地選定の指標設定             ――――――  8

(3)    需要拡大とコストダウン             ―――――― 9

①    鉄筋コンクリート内の木造化         ――――――  9

②    路網整備とコストダウン対策         ――――――  9

③    立木による複数年契約            ―――――― 10

④    多業種業者による会社設立          ―――――― 10



Ⅲ 森林の公共性について              ―――――― 12

 1 森林の多面性機能               ―――――― 12 

 2 SDGs(持続可能な開発目標)        ―――――― 13



Ⅳ 研究テーマについて                  ―――――― 17

1 調査研究課題                   ―――――― 18

(1)    植林の適地と樹種の選定           ―――――― 18

(2)    二酸化炭素の蓄積量の違いについて    ―――――― 18

(3)    災害の発生メカニズム          ―――――― 18

(4)    山林所有者と事業者がウインウイン     ―――――― 19

(5)    立木契約の事業量調査          ―――――― 19

(6)    山林の多様性確保            ―――――― 20

 2 調査協力のお願い              ―――――― 20



Ⅰ 上小阿仁村の森林を守り、活かしていく



何もないところから何かを作り出すことは難しいわけですが、村にたくさんあるものや村にしかないものからいろいろなものを作り出すことについては、村にその歴史と技術があります。



村の9割を占める山林の利活用について、村では事業支援策を講じております。

 森林の経営計画を策定していただければ、山林整備にかかる事業費の9割以上を補助しております。



 国県の補助:68% 村の補助:25%(計93%) 林家の負担:7%



  植林:林家の負担 0%(村が補助しているので林家の負担はない)

  下刈:林家の負担 7%

  枝打:林家の負担 7%

  間伐:林家の負担 7% 作業道の事業費を含む。

  皆伐:林家の負担 100%だが、作業道が整備済みで、良質材の販売となる

           売払い代金から、伐採事業費を支払うが、一般的な皆伐事業費よりは、間伐をしていることと作業道ができてい    

           ることから、事業費は、安く済むので、林家に残る売払い代金は多くなる。      



 これまで、経営計画を作成するにあたり、課題となったのは山林所有者の取りまとめでした。

 しかし、最近のウッドショックもあり、山が動き始めました。

 特に集落有地や集落民が造成育成してきた「ワケヤマ」については、面積がまとまっておりますので、権利を有する皆さんの同意があれば、計画の作成が可能となります。



今、伐採の時期を迎えている山林は造林面積の半分以上となっております。

この山林を整備するために、事業者の方々に仕事をしていただきたいと思っております。

一回に全部の木を切ってしまう方法もあります。

しかし、作業効率や事業収入を増やしていただくには、まず、間伐事業をして、山林の生育を助けることです。

間伐事業をするにあたって、作業道ができていきます。

間伐事業と合わせて行う作業道整備事業も補助対象となっております。

これまでは、事業費の支払いは、丸太の販売額のほぼ全額を支払いましたので、50年以上も整備してきたのに少しのお金しか残りませんでした。

しかし、今の村の制度は、9割以上の補助となっていますので、補助金とほぼ同額が、山林所有者の手元に残ります。

間伐が終わり、5年後以降に残した良質材を切りますが、間伐の時にすでに、作業道ができておりますので、ほぼ伐採の事業費だけとなります。

残っている良質の山林を伐採する事業者は、2回目の事業によって、再びの事業収入となります。

そして、山林所有者は、良質の丸太販売額から、事業者に事業費を支払いますが、作業道整備の事業費が安くなりますので、残るお金も多くなり、2回目の収入として、手元に残ります。

これによって、事業者も山林所有者も山林による収入が、これまで以上に多く入ることになります。

その後の植林についても村は、他事業にない全額補助をしておりますので、タダで植林することができます。

植林の後の山林整備についても9割以上の事業費補助をしております。

これは、上小阿仁村だけが行っている制度となっておりますので、是非、活用していただき、事業者も山林所有者も、そして、将来の村も豊かになってもらいたいと願っております。

村は、山林整備について、先人の汗水流して造成した山林をさらに整備し、利活用して、植林して将来の村のために残す循環型の山林整備をするものです。

そして、脱炭素化や地球温暖化防止、災害防止で村民が安全で安心して生活し、将来の子供たちに良質の財産として、承継していくものです。



Ⅱ 上小阿仁村の紹介



 最初に、上小阿仁村をご紹介いたします。

 上小阿仁村は、北緯40度ラインに位置する秋田県北部内陸の中山間地域に

あります。

 北緯40度ラインには、男鹿半島や大潟村、岩手県の普代村があります。

海外の主要都市としては、アメリカのサンフランシスコやワシントン、イタリ

アのナポリ、中国の北京などと同じです。

村は総面積の約90%が山林原野で、その約70%が国有林となっております。

 天然秋田杉の産地として、林野庁が赤字経営の時、天然秋田杉を伐採することで、赤字補填をしたと聞いております。

 希少となった天然秋田杉は、東京の上野の国立科学博物館での展示や京都の迎賓館の用材として活用されたのを最後に、天然秋田杉の伐採はされておりません。

 最近は、村有林2,000haについて森林認証を取得し、東京オリンピック・

パラリンピックに係る国立競技場の建築材として秋田県を代表して秋田スギを

供給しております。

戦後、秋田県がスギの植林を推奨したこともあり、2,000haある村有林の内1,500haが造林スギとなっております。

 すでに、100年生のスギもありますが、40~60年生のスギが約半分で、今すぐに伐採できる状況となっております。

 先人が苦労して整備し、残してくれた森林は、宝の山となっております。

 このままだと宝の山は、死んでしまいます。

 このことは、日本も同じだと思っております。

 森林を活用することで、人口減少、少子高齢化対策を講じ、災害を防止し、

森林はより良い状況になり、後世に承継されていくことになります。



1 現状について



(1)    地球温暖化と異常気象による災害



公共事業による災害復旧の目安は、24時間の降水量で80mm以上が対象でした。

最近の累計降水量は、1、2日で300とか400mmといったこれまで、考えられない雨の量です。

毎年、どこかで豪雨による災害が発生して、たくさんの人達が亡くなり、家が流されて、住めなくなっております。

 もしかしたら、森林の手入れをしなくなったことや化石エネルギーが原因ではないかと思っております。



(2)    人工林が無くなる



人工林のスギの植栽面積が、50年生が約半分を占めていると言います。

そして、人工林は手入れがされない場合、密植していることもあって、枯れていくとのことです。

 スギの齢級バランスは、需要と供給を考える時、今のままでは良くない状況であると思います。

持続可能な循環型の山林経営(1~100年生以上)をするとき、この齢級バランスを良くしないといけないと思います。

 また、皆伐をした山林の植栽率は、全国平均で約30%、秋田県は、15~20%、大館市は、6%で、このまま植栽をしないと大館市の場合、120年後には、人工林が消滅するとの新聞記事がありました。



(3)立木価格と担い手問題



 木材製品が値上がりしているのに、立木の価格は変わっていない現象は、森林崩壊の前兆だと思います。

 赤字を出してまで、山を守る人はなかなかいないのではないでしょうか。

 また、秋田県立大学の講義での学生の森林のイメージとして、少子高齢化や危険な仕事、儲からない、担い手がいないなどをあげておりました。

 儲けすぎるのも問題ですが、儲からないということが、どの業種でも最後まで大きな問題となります。



2 その対策について



(1)    災害予防



①    化石エネルギーから自然エネルギー



化石エネルギーから自然エネルギーの転換を考えないといけないと思っております。

 10年くらい前に、間伐事業で道路の脇に積んである丸太を見ました。

 タダで持って行って下さいといっても、だれも持って行かないというのです。

 人件費と運搬費が高いからだと言われました。

 今はだいぶん変わりました。

 チップ材によるバイオマス発電が盛んになりました。

 これまで、伐採後、山に捨てていた曲がった木や細い木についてもチップとしての需要が増えてきましたので、活用が期待されております。

 また、チップボイラーによる熱交換は、冷暖房に活用されております。

村の集会施設は、木造2階建てとし、放課後児童クラブの教室や宿泊研修室、レンタル事務所、アパートとしているほか、村有林材やCLT材の活用、チップボイラーの設置で循環型の森林経営の一助としております。

 今後、1つのボイラーで、周辺約2km範囲まで配管できますので、例えば、灯油や電気での冷暖房をしている老人ホームや保育園、診療所、公営住宅の冷暖房を更新することが可能となります。



②    人工林と天然林の比較



 地球温暖化防止や山林の保水力による災害防止で、疑問に思っているのが、スギの人工林と天然林の比較です。

 人工林と天然林のそれぞれの炭素蓄積量や水源確保量等のデータを見つけていないからです。

 人工林が高齢級になってくると二酸化炭素の吸収量が減少してくるとのことです。

 このため伐採した後には確実に植栽をすることで、二酸化炭素の吸収量を増加させることができます。

 二酸化炭素吸収量の比較としては、間伐により伐採後に光が差し込むことで、適正な森林整備による蓄積量や皆伐後の植え付けによる人工林と何もしない天然林の蓄積量を明確化しておくことで、経営計画の内容に影響が出てきます。

 そして、スギと広葉樹の比較も重要なものとなります。

 スギの育ち難いところに広葉樹の活用も検討することになります。

 広葉樹は、一度、植栽すると、その後、伐採しても自然に芽を出すことから、その後の植林が不要となるメリットもあります。

 将来の木材需要を考える時、スギの人工林の事業効果が高ければ、もっともっと事業投資を促進できるのではないかと思っています。



(2)    計画的な伐採と植栽計画



①    齢級バランスの確保



 スギの植栽面積が、50年生が約半分を占めていて、伐期になっていることや、手入れをしない人工林は枯れて、災害の原因となることや、日本だけが、齢級バランスが悪いことを知りました。

 木材需要と供給のバランスをとるためにも伐期となっている50年生の林の伐採と間伐、植栽を計画的に行わなければならないと思います。



②    植栽地選定の指標設定



皆伐後、100%の植栽は難しいと思っておりますが、森林の多面的機能から、天然更新と植栽の効果の比較をしながら、スギの植栽の適地の選定指標を定めることが必要であると思っております。

土地条件として、道路が整備されているとか、植栽地の傾斜や標高、日当たり、水はけ等の条件が考えられます。

例えば、標高の高いところの人工スギは、同年生の木と比較すると格段に細く、高さもありません。

成長が悪いのです。

傾斜についても雪による根曲がりや作業効率等のコストの問題などがあります。

同様に日当たりや水はけ等によって、違いがあるように思います。

これらを数値化して評価できれば、全体の植栽ゾーニングとコストを配慮した森林経営計画をつくることができると思っております。



(3)    需要拡大とコストダウン



①    鉄筋コンクリート内の木造化



 民間企業の場合、どのような事業を推進するにしても最終的、総合的に儲からないといけません。

 そのためには、需要を待つのではなく、需要を作っていかないといけません。

 一例として、これまでの木造住宅の需要もさることながら、中高層ビルへの売り込みを期待しております。

 あるデパートで、コンクリートのフロアーを木材のフローリングにしたら、お客さんの滞在時間が、約30分長くなったとのことです。

 それだけ、人間に優しく足に負担をかけないことで、滞在時間が延びたのだと思います。

これは、売り上げにも大きく影響することとなります。

 また、東京都港区では、木材を活用した街づくりを進めており、鉄筋コンクリート建ての庁舎の床や壁、天井を木材に改修し、区民や職員の健康の増進を図っております。

 生活環境を日本の気象状況に適合した木材を活用した環境に戻すことで、日本の高温多湿や寒冷地域において、木材が異臭や高温多湿等を調節することで、肉体的、精神的健康が維持されるものと思っております。

 これをまず、公共施設から進め、しだいに民間オフィスにも広がっていくことで、需要拡大を期待しております。



②    路網整備とコストダウン対策



林業関係者から一番求められているものとして、林道があります。

自分の山に行くのに他人の山の中を歩いていくことは、山の維持管理をする上で、大変な障害となります。

林道がないということは、除伐や間伐、皆伐をするとき事業費が増加することになります。

路網整備によって、現場に捨てられていた木材についても用材やチップ材等として、搬出が可能となります。

そのためにも林道等の整備について、国道や市町村道や河川整備等と同様に公共施設整備として進めることが望まれます。



③    立木による複数年契約



 これまでの公共機関の林業事業の入札は、事業ごとに単年度契約をしています。

伐採事業を落札した業者は、丸太生産したボリューム契約をしていますので、市場の単価状況や需要動向に関係なく、伐採だけを効率的に行います。

発注者は、丸太を売払った代金から、伐採事業者に搬出した丸太のボリュームによって事業費を支払います。

土地条件や丸太の状況、市場単価によっては、赤字になることもしばしばとなります。

また、伐採後、植栽業者は、植栽をするために地拵えをします。

もし、伐採業者が植栽までの一連の作業を請け負えば、伐採時に機械等で、地拵えや植栽を考慮した作業を実施することになります。

もう一点は、このような一連の事業も単年度契約では、植栽が春と秋しかできないので、植栽は、秋しかできないことになります。

そうすると伐採は、春から夏になります。

 春から夏の伐採は、伐採後、虫が入ること等もあって、丸太の単価が安い傾向にあるそうです。

 このようなことから、発注者としては、確実にお金が残るように、複数年での立木契約とし、立木契約した事業者とその後の植林や下草刈り、除伐等の契約が補助事業によって対応できればと思っております。

これにより、受注事業者も複数年契約であれば、丸太の販売も受注者で対応するため、市場単価や需要に合わせて、伐採や地拵えの一連作業、植栽事業を余裕を持って、高収益を勘案して計画的に実施できこととなります。



④    多業種業者による新会社設立



 木材関連業者(建築設計事務所や造材、造林、製材、建築業者)とそれ以外の業者(土木、商店、製造業、金融業者など)による出資会社の設立や行政の係わりによって、新しい会社設立をすることで、伐採、植栽、搬出、製材、建築を一つの会社で対応することが可能となります。

 山林整備のための道路整備や丸太の運搬、製材、木材の供給と建築や設計の一元化によって、計画的な需要と供給に対応した事業が国県村の制度を利活用して実施することが可能となります。

 スタートとなる山林については、2,000haの村有林とし、徐々に4,000haの民有林の山林整備によって山林を将来に承継していくことができます。

一例としては、都市部からの受注に対して、設計から加工を地元で対応し、必要な部材だけを運搬することで、経費節減を行いながら、都市部の現場では、組み立てるだけといったことが可能となります。

また、村内需要についても一元化は、村内対応で、コストの高い運搬費が軽減され、地元経済の活性化につながります。

それぞれの持っている異業種のノウハウや労働力、取り引き先を共有することで、生産性のコストダウンと需要先や商品開発、雇用の拡大が図られます。



Ⅲ 森林の公共性について

 

国土の約7割が森林です。

しかし、活用されないままに荒廃しています。

 何もないものから、新しいものを生み出すことは、難しいと思っております。

 先人が汗水流して、苦労して残してくれた「宝の山」を将来のためにも後世に良い形で承継していかなければならないと思います。

森林の持つ多面的な機能を良好な状態に維持管理しなければ、国民が健康で安全に安心して、生活していけなくなります。

国民全員の総合力によって、国民が生活するための良質な環境を整備していかなければならないと思っております。

まず、森林の持つ多面的機能を国民に理解していただくことになります。



1、森林の多面性機能



森林の多面的な機能としては、次の8項目が上げられます。

 

 (1)生物多様性保全

    約200種の鳥類、2万種の昆虫類をはじめとする野生動植物の生息・

生育の場です。



 (2)地球環境保全

    温暖化の原因である二酸化炭素の吸収や蒸発散作用により、地球規模

で自然環境を調節しています。



 (3)土砂災害防止機能や土壌保全機能

    森林の下層植生や落枝落葉が地表の浸食を抑制し、樹木が根を張り巡

らすことにより土砂の崩壊を防止し土壌の保全をしています。



 (4)水源涵養機能

    土壌が降水を貯留し、河川へ流れ込む量を平準化して流量を安定させ

るとともに水質を浄化する機能を有しております。



 (5)快適環境形成機能

    蒸発散作用等による気候緩和、ヒートアイランド現象の緩和などによ

り快適な環境形成に寄与しています。



 (6)保健・レクリエーション機能

    フェトンチッドに代表される樹木からの揮発性物質による健康増進効

果、行楽・スポーツの場を提供しています。

 フェトンチッド:植物は、根を下ろすと、その場で生きていかなけれ

ばなりません。

         そのために、周りの草を枯らしたり、虫などを追い

払う物質を発生します。

人は、フェトンチッドから病気の治療薬の精製や健

康のための森林浴を行っています。

         

 (7)文化機能

    景観が行楽・芸術の対象としての感動を与え、日本人の自然観の形成

に寄与、森林環境教育の場を提供しています。



 (8)物質生産機能

    環境に優しい資材である木材の生産、各種の抽出成分、きのこや動植

物などを提供しております。

 

 これらの恩恵を毎日、全世界の人たちが享受しております。



2 SDGs(持続可能な開発目標)

 

世界的に地球環境や社会・経済、エネルギーの持続可能性への対策が、急がれているSDGsについても森林の果たすべき役割が大きくなっております。

  このことについても国民や世界の人たちに理解を求め協力していただかなければならないと思っております。

  SDGsについては、世界が2030年までに達成すべき、17の環境や開発に関する国際目標です。

目標年次 2030年を設定し、17の達成目標と169のターゲット、

232の指標を 2015年の国連総会で採択しています。

 

①    貧困をなくそう

あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる



②    飢餓をゼロに

飢餓を終わらせ、食糧安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する



③    すべての人に健康と福祉を

あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を確保する



④    質の高い教育をみんなに

すべての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯学習の機会を促進する



⑤    ジェンダー平等を実現しよう

ジェンダー平等を達成し、すべての女性及び女児の能力を強化する



⑥    安全な水とトイレを世界中に

すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する



⑦    エネルギーをみんなに、そしてクリーンに

すべての人々の安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーのアクセスを確保する



⑧    働きがいも経済成長も

包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(デイーセント・ワーク)を促進する



⑨    産業と技術革新の基盤をつくろう

強靭(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る



⑩    人や国の不平等をなくそう

各国内及び各国間の不平等を是正する



⑪    住み続けられるまちづくりを

包摂的で安全かつ強靭(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する



⑫    つくる責任、つかう責任

持続可能な生産消費形態を確保する



⑬    気候変動に具体的な対策を

気象変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講ずる



⑭    海の豊かさを守ろう

持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する



⑮    陸の豊かさも守ろう

陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処、並びに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する



⑯    平和と公正をすべての人に

持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する



⑰    パートナーシップで目標を達成しよう

持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する

 

 これらについては、すべての国が、すべての人々が参画をして、対応しなければならないと思っております。



多様化する森林の関わりは、17の達成目標のうち、13項目が、森林に関っており、①や⑩、⑯、⑰の4項目だけが関わっていないことになっております。

森林の関わりは、森林整備による水源や生物多様性、土壌、海洋環境改善などにつながり、森林資源の利用に至っては、建築物の木材の利用や金属等の代替え、木質バイオマス、きのこ、漆、ジビエなどの活用となっています。

更には、森林空間の利用では、観光やレジャー、健康、教育、ワーケーションが上げられ、今後の関わりとしては、森林経営や従事者の安全、女性参画が重要視されてくるものと思っております。

このような森林の関わりについて、国民に説明や周知をして、理解していただいているでしょうか?

SDGsは、世界が手を取り合って、持続可能な17の開発目標を達成していかなければならない国際目標であると思っております。

 そして、森林の持つ役割の推進は、世界のため、地球のため、日本のために喫緊にやらなければならない重要なものと思っております。

この世界規模の解決しなければならない課題を地域や林家だけに負わすのは、無理があると思っております。

国が国民のために実施している国道や河川などの整備と同様に、地域や林家個人に任せるのではなく、国が責任を持って、公共事業として推進することが、日本国民の生命と財産を守ることになると思っております。



Ⅳ 研究テーマについて





 村が課題としている森林整備の課題について、何らかの方法によって、早急な解決を図る必要があります。

 これらについて、関係機関に研究テーマとして真剣に取り組んでいただきたいと思っております。

 課題としいているそれぞれについての指針が欲しいのですが、大別するならば、1つは、伐採後の植栽が少なくなっていますので、スギの生育条件の良い所にだけでも植栽をする適地条件基準の研究です。

 2つ目は、人工林と天然林の比較による炭素蓄積量と樹種等による水の保水量の比較研究です。

 3つ目としては、立木契約をするためには、木材の蓄積量の把握が必要になります。

航空写真やドローンによる森林資源算出の研究です。



研究機関や大学での具体的な調査研究によって、得られた指標やデータを山林

経営者が活用することで、適地植栽や作業効率の問題を将来的に解決できれば、植林や山林整備、伐採運搬が容易に積極的に実施されていくことを期待しております。



1 調査研究課題



  今後、村だけでなく、秋田県や全国において、山林整備をしていく場合、

課題解決のための基礎データが重要となります。

  特に大学や企業等での調査研究の取り組みに期待しているところであり、

以下に上小阿仁村を活用した取り組みについて、述べてみます。





(1)    植林の適地と樹種の選定

木材の需要と供給や樹木の育成に当たり、条件の異なる山林において、

  標高や傾斜、道路までの距離などを点数化し、総合評点によって、林家が

スギ及びその他の樹木の選定を容易にする総合基準表の作成です。





(2)    人工林と天然林の比較

人工林と天然林による二酸化炭素の吸収量と水の保水量に違いがあると

思っております。

   脱炭素化は地球温暖化による異常気象を防止し、災害を防ぐことができ

ます。

  スギの成育と森林整備の関係は、一定の林齢までは、吸収量が多いがその

後、減少することが、報告されております。

 これも間伐等による山林整備によって、回復するとの書籍もありますが、

具体的なデータによる証明が必要と思っております。

   また、スギの伐採後における植栽した山林と植栽しないで、そのままに

している天然更新による天然林並びに広葉樹の山林との二酸化炭素や保水

量について、他の地域での調査研究においては、スギの二酸化炭素の吸収量

が一番多いことは聞いておりますが、上小阿仁村での保水力を含めたデータ

に興味深いものがあります。



(3)立木契約の事業量調査

入札を実施するに当たり、事業設計書が必要となります。

立木契約に際しては、立木の本数や胸高直径、長さのデータが必要になり

ます。

これをドローンや航空写真、地上での現場写真等で、対応できればと思っ

ております。

   現時点では、現場踏査によって調査しております。

   面積が大きい場合は、何年もかかることになります。

   入札時の設計書としては、山林の場合目安となるものが求められます。

   蓄積量と合わせて、道路までの距離や丸太のストック場所、傾斜、生育

年数、丸太の長さと直径ごとの市場単価などいろいろの条件を総合して、入

札をすることになります。

   とりあえずは、現場の立木の本数や直径がデータとして必要になります。

   これは、より正確なものであれば、適正な予定価格の設定となり、入札

業者もそのデータによって、適正な入札が可能となります。

   ドローン等のデータと実際に皆伐したデータを補正しながら対応できれ

ばと考えております。

   村有林について、実際に人による立木調査とドローン等によるデータと

実際に皆伐事業後のデータを得ることができますので、これらのデータを突

き合わせることによって、補正係数等を導き出すことができるのではないか

と思っております。

   これらについて、大学や国県、ドローン等のメーカーとの協力によって、

利活用できるデータを期待しているものです。



(4)災害の発生メカニズム



   異常気象による集中豪雨や台風などに強い山林で、災害を防止するもの

です。

   間伐等による整備は、スギの根の粘りを促進し、土砂崩れをどれほど防

  止できるのでしょうか。

   スギの植栽地と広葉樹の植栽地、自然更新されたところでの水源保有量

  と土砂崩れの状況比較のデータが求められています。



(5)山林所有者と事業者がウインウイン



   立木による複数年契約により、伐採後、植林を行い下草刈り、除伐を補

  助事業による単年度事業で対応する。

   例えば、山林20haを10年契約します。

   業者は、木材価格や市場動向によって、3年以内に需要と供給バランス

による計画的な伐採を行います。

   伐採された土地には、翌年にスギの植栽をします。

   植栽の翌年は、下草刈りをすることになります。

   数年後には、除伐をします。

   複数年契約のメリットは、伐採する業者と植栽や下草刈り、除伐をする

業者が同じであることで、長期的に計画的に進んでいきます。

   単年度契約とした場合(翌年度以降の作業受託が保証されないため)、伐

採業者は、伐採効率を最優先する傾向にあり、植栽の地拵えを考慮しない作

業となることや伐採のために機械を山に上げ、地拵えで翌年、機械を山に再

び運搬することになり、重複する作業が増えることになります。

 事業者が単年度契約している補助事業について、一連の契約が可能になれ

ば、事業者は、長期的な事業計画を策定し、設備投資や雇用計画が安易とな

り効率が良くなると考えております。



(6)山林の多様性確保 



   山林の持つ多様性を確保するために、山林整備をいかにするかについて

  の研究課題は山ほどあり、研究テーマには事欠かないと思っております。



 2 調査協力のお願い



   課題解決のためには、村だけの対応には、ハードルが高く、村でできる

ものと専門的な機関や立場の方々にご協力をいただきたいものに分かれて

まいります。



事業推進について、知識がなければ、知識のある人に教えてもらうこと

や、やれる人にお願いすることも大切だと思っております。

   やってみて、失敗したら、なぜ失敗したかを検証し、見直しをし、

再度の挑戦をすることで、村は良くなると思っております。

   研究の圃場については、秋田県林業大学校にも実習圃場として提供して

おりますし、今後、山林整備計画によって、除伐や間伐、皆伐などを実施

していく村有林が2,000haありますので、山林整備の効率化による国

民の安全で安心な生活のために活用することを目的に村は協力をしていく

所存ですので、ご指導ご協力をいただければ幸いです。

 

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